伊豆・稲取の「雛のつるし飾り」

 4月8日(木)、朝から穏やかな天気でドライブ日和となった。朝の8時半に自宅を出発したが、年度末や週末を外したのでひどい渋滞も無く、10時半には伊豆高原に入った。ここには私たちの知人夫妻がケーキやクッキーを作って販売している「レマンの森」というお店がある。
 藤沢市内で開業しておられた頃に子供同士の縁で知り合い、ずっとお付き合いしているが、2年ほど前にお店の権利一切を後進に譲って引退。伊豆高原に居を構えたものの、そこは職人さんである。のんびりしておれなくて、昨年現地でケーキ屋さんを再び開業。腕前やアイデアが評判を呼んで繁盛し、けっこう忙しい思いをしているようである。

01_03-Lemannomori  「レマンの森」の看板     アプローチ      店内(喫茶コーナー)

 ご夫妻と旧交を温め、ケーキとコーヒーを頂いて1時間後に出発。伊豆半島東岸を南下して、北川、熱川の温泉街を抜け、東伊豆町の稲取地区に入った。ここも温泉地の一つで、ホテル、旅館、レストランなどが多い。私たちも一軒の食堂に入って昼食を摂った。
 近くの交番で文化公園の場所を聞き、「雛のつるし飾りまつり」の幟が並ぶ広場に着いたのは、雛の館が開館する14時の15分ほど前だった。

04_05-HinaYakata-Kanban_Entrance-600_284        雛の館前の看板        ゲートと木道、奥に館

 周囲に植えられた桃の花が盛りで、広場は赤、桃、白の色でにぎやかな色合いになっている。鳥居のようなゲートをくぐって木道を奥へ進むと、どっしりとした木造の展示場がある。
 開館を待っていると、駐車場に中型の観光バスが入ってきて、25人ほどが降りてきた。14時少し前に「雛の館」から2人の女性が出てきて、入り口の上に幅の広いのれんをかけた。バスのグループがすぐ入っていったので、私たちは少し間を置き、半分ほどが出てきてから中に入った。

06_07-HinadanKazari600_230                    七段飾りとつるし飾り            つるし飾り

 入り口を開けるとすぐ脇に受付があり、みなこさんがにこにこと立っていた。昨年の初夏に初めてお会いして以来である。もう一人、管理を担当する若い女性が中に居た。二人ともベージュ色の着物にオレンジ色のもんぺ(絞り袴?)を履き、胸にはつるし雛のレプリカを付けていた。
 建物の中は大きな空間で、半分ほどはがっしりとした梁組があらわになっている。窓は少なく、最近建築したものであろうが落ち着きを感じる。

08_10-Tsurushi-600_200  五連、七連のつるし雛  開いたさるっこのつるし雛 つるし雛のいろいろ-1

 このつるし雛という風習は、江戸時代後期からこの稲取地区に根付いており、段飾りなどの贅沢な人形を買えない貧しい人々が、端衣れを使って子供のために作り始めたのが始まりと言われているそうである。
 一番上の竹輪を布でくるみ、その下に三連から七連の赤い糸で縫いぐるみの人形を吊るす。これは稲取以外では福岡県柳川の「さげもん」、山形県酒田の「傘福」に共通点が見られるそうである。

11_13-Momo-293-196               もも(基本)  猿っ子(基本)

 人形の基本形は「桃」や「猿っ子」だそうで、これは柳川とも共通しており、手足を開いたものと、胎児のように手足を縮めたものとがある。また「桃」は基本型の他に三個や五個を放射状に縫い合わせたものもある。
 またつるし雛のほぼ真ん中にある手まりは、稲取と柳川ではかなり造りが異なっている。稲取では立体パッチワークのように全て縫いぐるみでまとめてあり、柳川では芯になるまりに細かな花模様を止めてある。

17_19-Mari    手の込んだ連     稲取のまり(七宝まり)    柳川のまり

 稲取のつるし雛には55種類の人形があるそうだ。これを2組並べるのが一飾りとなる。段飾りがあるときには、その両側に一組ずつつるすようだ。私たちがここで見てきたつるし雛は、ほぼ一対で二組ずつ並んでいた。55種類の中にどのようなものがあるのかを全ては把握できていないが、拝見できたものの一部をここに紹介する。

20_23-pieces                一つ桃       座布団       花      五つ桃(風車)

24_27-Pieces      柿       猿っ子    三番叟(変形)   這い子人形

28-31-Pieces草 履       這い子      金 魚       金目鯛
つ る し 雛 の い ろ い ろ - 2

 稲取では、この雛作りを女親から娘へと、代々受け継いできたもののようである。みなこさんのお宅にも、ひいおばあさんがおばあさんに作ったものや、おばあさんがおかあさんやみなこさんに作ったものがあるのだとか。みなこさん自身も、おばあさんから作り方を教わったり型紙を頂いたりして、作っているそうである。
 そのみなこさんが手作りされたつるし雛を妻に頂いた(下)。左から三つ桃、ふくろう、一つ桃を形取っている。このつるし雛は、奇数(割れない数)を基本として構成されているということである。

32-Hina-made_by_Minakoみなこさんに頂いた手作りのつるし雛

  つるし雛は商売ではなく、庶民が娘のために心を込めて手作ってきた。一応パターンは決まっているものの、作り手の感覚で微妙に変化するので、手作りの暖かさと柔らかさ、そして親の愛とを感ずるのである。

33_35-Hina-Kazari     内裏雛飾り      つるし雛と雛道具       御殿飾り

 これらのつるし雛のほかに、この展示場には御殿飾り、内裏雛飾りなど古いものらしい豪華な雛飾りや雛道具が展示されていた。
 参考までに、みなこさんがこのつるし雛を紹介したHPのサイトと、伊豆のつるし雛を紹介するウエブサイトをご紹介する。

みなこさんのサイト   インターネット伊豆サイト

 みなこさん、いろいろお世話いただき、ありがとうございました。
※ なお記載の内容及び写真は私的にまとめたものなので、引用・転載は一切禁止します。

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