藤沢でアカホシゴマダラに出会う

 9月の後半は台風14号の日本海縦断の後雨が続き、急激に気温が低下。あっと言う間に秋の到来である。そんな中の日曜日。妻と教会に出かけ、やっと差してきた柔らかな日差しの中を、いつもと違う坂道を登って自宅へ帰ってきた。この坂道は、商店街のある本通りから、車1台がやっと通れる幅の坂道が私たちの自宅付近まで200メートルほどうねうねと曲がりながら続いている。
 この坂道の両側はけっこう古い住宅地で、私達が1977年に札幌から転勤してきて借りた6畳2室の小さな借家も、この坂道の途中に面して建っていた。この時から26年程の間に殆どのお宅で代替わりし、建替えや増築などで7割方は様子が変わってしまった。私達が借りて住んでいたかっての借家も、今はない。
 この日、この坂道のほぼ最高点に達しようとする所まで来た頃、左手の古い木造アパートの生垣に、全く見慣れないチョウが飛来した。両翅を拡げた幅は7センチほど、比較的ゆっくりと羽ばたいて飛ぶ。

akahoshigomadara-photo-Zukan ミカンの葉に来たアカホシゴマダラ      アカホシゴマダラ(日本亜種)♂

 全体の模様はゴマダラチョウにそっくりなのに、前翅の模様がやや細かく、おまけに後翅の下にはアゲハの仲間のように赤い輪模様が並んでいる。私が初めて見るチョウである。デジタルカメラを取って来たいが、自宅まで約50メートル。戻っている間に居なくなってしまう可能性が大きい。飛び方がゆっくりしているので捕らえるのは簡単だと思ったが、その昔私は多くの昆虫を捕らえては、標本にするために殺しまくってきて、大反省をしているために、手を出すことを躊躇していた。
 このとき、妻が「携帯電話!」と叫んだ。そうだ。携帯電話をカメラ付きに換えて間がないために気が回らなかったが、この時その携帯電話を身に付けていたのである。撮影サイズを最大にしてさて構えてみると、チョウは居ないし妻も消えた。となりの路地の奥から「こっちこっち!」という妻の声。行ってみると、そのチョウは目の高さの日陰をゆったりと行き来していた。
 じっと待つこと10分。やっと陽の当たるミカンの葉に止まった。なれない手つきで2コマ撮影すると、私達が登ってきた方角に、フッと飛び去った。
自宅へ帰ってさっそく日本の昆虫図鑑を見てみると、同じ模様のチョウがすぐに見つかった。アカホシゴマダラであった。但し、生息地は奄美方面のみで、リュウキュウエノキを食草にしているとあった。
 迷蝶にしては距離がありすぎるが、14号台風が9月11日に沖縄西部を通って朝鮮半島をかすめ、13日には新潟県沖の日本海に抜けているから、その風に乗ってきた可能性も否定は出来ない。しかしそれから2週間も経っているから、あれだけの飛翔力を維持し続けていると言うのも考えにくい。
 夜、思いあぐねて息子にメールで状況説明するとともに、画像を送ってみた。翌日、息子が昆虫に詳しい人から回答をもらったと言うことで連絡をくれた。その内容の概略を記載してみる。

★ 写真の蝶はアカホシゴマダラの♀個体と思われる。国内では奄美大島・徳之島の特産種である。最近、神奈川県の鎌倉方面で2・3年前から発生しているという種は奄美大島に分布する亜種ではなくて、中国大陸に分布する亜種と思われる。形態的には日本産のものと中国産ものは異なるようである。マニアが放蝶した中国産のものが定着していると思われ、自然界の法則に対する冒涜であり、残念である。
 その報を得た後、ふと思いついて自宅にあった「原色台湾蝶類大図鑑」を調べてみると、より詳しい情報が掲載されていた。その分布図では、台湾、奄美諸島のほかに、朝鮮半島と中国本土の東南部に広く拡がっていた。

akahoshigomadara-bunpuzuアカホシゴマダラの分布図(白水隆・保育社・原色蝶台湾類大図鑑1960.04より転記)

 今回のアカホシゴマダラに限らず、本来生息していなかった地域に、新しい種を故意に移入する困ったマニアが増えていると言う。これらのものを「帰化種」として認めてしまうのは簡単ではあるが、それが移入された地域に適応してしまって、在来種への圧力が大きくなることは好ましくない。

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